会員の皆さん今日は。今年もあとわずかとなり忙しい日々となりますが、お元気にてお過ごしのこととお察し申し上げます。
さて、このゴブラン会会報誌も、いよいよの最終号となりました。又、ゴブラン会の存続につきましても2年前から折々に語り合い、今年になり幹事会を中心に忌憚のない意見を出し合ってまいりました。結論として幹事会、全会一致をもって、来年6月2日のゴブラン会賞味会を実施後に幕を閉じることになりました。
当然、今日までゴブラン会を支えていただいた方々より、何とか継続されないものかとのご意見も多くいただき、実に有り難く存じております。そこでゴブラン会を閉じるに至った理由とその根拠を明確にお示しし、皆様方のご理解をいただきたいと思います。
まず、ゴブラン会の結成時のことは、よく知られていることですが敢えて記しますと、きっかけは、安達実料理長の「ビストロ備前」にフランス帰りのシェフ達が集っていて、今日の中心メンバーもそこでの交流からの方々であります。当時70年代の何かと厳しい環境下のフランス各地で、懸命に習得してきた技術、感性、フランス食文化全般についての知識を糧に、自身のこれからの活路を見い出す為に、誰もが少々の不安を感じながらもエネルギッシュで懸命に過す日々でありました。事実、それぞれの方々は今日立派に自身の立ち位置を築かれておられます。しかし、あれから早や40年近くの年月が流れております。
途中からゴブラン会の幹事として強力にサポートしていただいた新たな幹事のみなさんも含め、今や多くの方々が第一線を退かれております。まだまだ気力は満々と言いつつも、確実に体調面でのハンデを背負う身となり、私自身も時にヨタヨタしながら立派なジジイとなりました。
そして、久しく以前よりゴブラン会を引き継ぐ若手の育成を念じつつも、私の非力もあり、実際にはなかなか難しいことでもありました。又、コロナ禍後は、今までの常識も大きく様変わりした中で現状の急激な変化の中で自身の思考をどのように保ち、その本質をいかに理解してゆくべきかを、大きく問われる時代となってまいりました。
又、一方では「気候変動」が増々厳しくなり、そこより派生する様々な弊害に立ち向かう最中に、ロシアのウクライナ侵攻に続き、イスラエルのガザから中近東地域での、よもやの戦争の拡大が進行しております。今日まで何とか保たれていた均衡がもろく崩れ、危うく、不安定な時代になってまいりました。
この11月11日、アゼルバイジャンのバクーで地球温暖化を防ぐための「国際的会議COP29」が開催されました。気候変動に伴う様々な事柄が話し合われるなかで、今回は特に「気候変動対策のための資金調達」が中心で、CO2抑制の為には先進国から途上国への資金支援は不可欠です。今日の厳しさを象徴されるような、当初の目標の10倍となる、約150兆円の巨額な支援金が必要となりました。同じく11月18、19日には「G20サミット」がブラジルのリオデジャネイロで開催されました。ここでは主に国際ルールである「パリ協定」をいかに順守できるかが再三、言及されました。
今日、世界的にも貧富の差が広がり、あらゆる所で分断が進む中で、現在、世界の飢餓人口は7億3,300万人(11人に1人)となり、2023年には世界の28.9%、23億3000万人が中程度または重度の食料不安に直面したと発表されている中で、サミットでは、飢餓と貧困は自然現象の結果ではなく、政治的決定の産物であると表明され、同時に世の中の不平等についても言及されました。これは、その側面も多く、とても思いきった画期的な表明であったと思えてなりません。
顧みて、私共の日本国内でも様々な分野で問題が山積し、決して楽観できるような状態ではありません。このような難しい時代背景の中にあって、今後ゴブラン会の活動をどのように継続されてゆくべきかを問う時、物事には進むだけでなく、しかるべき時が来た場合、その引き際をどう成すべきかも、とても大切な事であります。
これは決してギブアップではなく、現状を鑑みて、冷静な判断を下した結果でありました。今日様々な厳しさがある中でも、次の世代を担い、築いてゆく優秀な若い方々が確実に育っております。ゴブラン会の理念は、そのような志ある方々に託して参りたい所存です。
最後に、32年間のゴブラン会の活動内容についても記しておきたい。まず最も記憶に残ることは、やはり「東日本大震災」での炊き出しである。あの夜、テレビで気仙沼の漆黒の海に火が燃え上がっている様子や、容赦なく、すべてを呑み込みながら襲いかかる津波の映像は脳裏にインプットされています。ゴブラン会では有志の皆さんとチームを組み、現地の無残な状況を目にし、それぞれが万感の思いを胸に秘め、各地で料理作りに励んだことが昨日のように思い出されます。
あとゴブラン会での毎年の講演会と賞味会について。30回で40名以上の講師の先生方のリストを見て、よくぞこれだけの立派な方々においでいただいたことに改めて心からの感謝を申し上げたい。又、その内容を小冊子にまとめ、全会員に届けられたことも会としての努めでありました。賞味会は「ブッフェ料理の真髄」と題し、毎回全力を出し切ってきた。結果的にこのことでホテルメトロポリタンエドモントの料理に対する有り方とスキルアップが自ずと計られ、進化を遂げられてきたことに感謝せずにおられない。
又、折々に実施されたゴブラン会ならではのオペラのミニコンサートは、長澤事務局長の奥様のピアノで、すべてを企画し、実行していただきました。毎回、会場は心底よりの感動で溢れ、ご参加の皆さんも大満足でした。又、各地の会員を訪ねるバス旅行も忘れられません。
私共のゴブラン会は単なる任意の会で、どこからも支援金を募ることもせず、会員の会費のみでの活動でありました。このような会のモットーを貫いた中で、日本の食文化の向上の為にささやかながらも32年間、立派に貢献できたことはゴブラン会の誇りです。
これも偏に各幹事の方々の情熱が持続され、又、会員の皆様方の揺るぎないご支援の賜であります。会長として心からの感謝とお礼を申し上げます。そして私自身もそうでありますが、会員の皆様には今日までゴブラン会を通じて得られた様々な事柄を糧として、更なる発展が成されてゆかれますことを心よりご祈念申し上げ、ゴブラン会会報誌での最後のご挨拶とさせていただきます。
寒さも一段と増して参りますがどうぞ皆様方にあられましては良き年末を過ごされ、新たなる希望の年を迎えられますよう、心よりお祈り申し上げます。本当に有り難うございました。
2024年12月 ゴブラン会 会長 中村 勝宏